私鉄のATS

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 大手私鉄のATSは別項で紹介したように、速度照査付のものが義務づけられたため多種多様な方式が用いられ現在に至っている。なお、国鉄(JR)から線路を承継した第3セクター鉄道は、JRと同じATS−S形が使われている例が多いが、中小私鉄ではATSの整備が遅れている現状もあり、より低コストのATSを開発する必要がある。

●単変周・多変周地上子形ATS

 JRのATS−S形と同様、一定の周波数を発信した地上子を1種類または複数種類設置して速度照査を行う方法である。

 単変周形は、1種類の周波数を持つ地上子を縦列に2個設置し、その通過に要した時間を計測し、規定時間以下の時間で通過した場合は速度超過と判断してブレーキを動作させるものである。2個の地上子の設置間隔で照査速度が決定される。1つの信号機に対しYG・Y・YY直下で速度照査を行う地上子と、停止信号の手前一定距離で速度照査を行う地上子を設けている。この方式の速度照査は地上子上のみで行われる。この方式は名鉄・京阪・南海で採用している。

 多変周形は、1個の地上子で複数の周波数を発生できるようにしたもので、1種類の周波数に対して1個の速度照査を割り当て、該当の周波数の地上子を通過した場合、車上でその情報を保持して速度照査を行い、速度超過の場合はブレーキを動作させるものである。この方式の速度照査は車上で情報として記憶できるので連続速度照査が可能であるが、現示アップしても次の地上子を通過するまで速度照査が継続される。この方式は東武・小田急・京王・近鉄で採用している。
 東武の場合は、一定速度照査ではなく第1パターン60キロ、第2パターン15キロのパターン制御としている。

●商用周波数軌道回路電流検知形ATS

 JRのATS−B形と同様、商用周波数の軌道回路電流を用いて、その電流断を検知して速度照査を行う方法である。

 点制御形は、東急ATSのみの採用である。信号機直下に配置した添線(キャンセルループ)に電流を流し、逆位相で擬似的に電源断の状態をつくり、そのキャンセルループを通過している電流断の時間を計測し、規定時間以下の時間で通過した場合は速度超過と判断してブレーキを動作させるものである。この方式の速度照査はキャンセルループ上のみで行われる。照査速度を変えるにはキャンセルループの長さを変える。この方式は東急のうち大井町線・多摩川線・池上線で採用している。

 連続制御形は1号自停と呼ばれる方式で、都営浅草線とその関係各社(京成・京急他)で採用されている。列車が軌道回路内に進入したのを地上装置が検知すると軌道回路電流をいったん断にし、0.8秒後に復帰させると45キロの速度照査、3秒断で15キロの速度照査情報として車上で検知し保持する。この速度照査を超えると45キロ速照の場合は常用ブレーキが動作し、45キロ以下で緩解、15キロ速照の場合は非常ブレーキが動作する。
 京急の場合は、信号機直下や、信号機外方一定距離の地上に速度検知子が設けてあり、YGF、YG直下と、Y、Rの外方一定距離においても速度照査を行っており、速度超過の場合は0.8秒の軌道回路電流断を行い、45キロ以下に速度低下させる。Rの外方一定距離(B点)での速度超過の場合は3秒の軌道回路電流断を行い非常ブレーキが動作する。
 保持した速度情報は、現示アップした場合は「確認扱い」を行うことでリセットされる。

●AF軌道回路電流形ATS

 ATCと同様、速度段に対応した周波数を設け、その周波数を受信し車上で連続速度照査を行う方式である。この方式は阪急・阪神・西武で導入している。西武の場合は、速度信号の変化は地上信号機基準ではなくB点となっていて、このB点を通過することで車上でパターンを発生させることができる。連続制御であるので現示アップの場合にも追従が可能である。

●C−ATS(都・京急・京成新ATS)

 最近のデジタルATCにおける地上・車上間のデジタル伝送を応用し、かつ各社の多様な運転形態に対応したデジタル方式ATSである。大別して「フラット信号」と「パターン信号」が用意されている。

 フラット信号は軌道回路からのMSK変調デジタル信号で照査速度を送信する。照査速度を超えていた場合は常用ブレーキが動作する。この照査速度は各信号現示に対応した多段階の速度照査にも対応している。

 一方パターン信号は、イメージ的にはJRのATS−P車上子に相当する、短小添線上を通過するとパターンが発生し、このパターンを超えると非常ブレーキが動作する。このパターン信号にはいくつかあり、「出発信号機停止時のパターン」「閉そく信号機停止時のパターン」「曲線速度超過防止パターン」がある。この違いを以下に示す。

  信号名称(xxは照査速度) 制御 照査速度超過時 特徴的機能
最高速度・信号速度照査 Fxx フラット 常用ブレーキ 信号機内方制御・非パターン
出発信号機停止時のパターン Axx パターン 非常ブレーキ 停止検知後の移動は7.5km/h以下
閉そく信号機停止時のパターン Pxx パターン 非常ブレーキ 停止検知一定時間経過後、車上記憶信号(M15)に移行。
M15信号受信時速度超過は非常ブレーキ。
曲線速度超過防止パターン Cxx パターン

非常ブレーキ

京急のみ。カーブ一定距離手前CB点通過により発生。
曲線速度超過防止速度照査 Lxx フラット 常用ブレーキ 京成のみ。カーブ一定距離手前CB点通過により発生。

この稿は、次の文献を参考にしています

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