ATS・ATCですべての事故は防げない

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 以前、日比谷線の脱線衝突事故が発生したときのニュースでキャスター(アナウンサー)が「ATSは働いていたんですか?」という的はずれのコメントをしていたことがある。たぶんこのキャスターは「ATS」という言葉は知っていても、そのATSが何であるかを詳しくは知らなかったようだ。報道機関なのだからあらかじめ識者に尋ねるなり調べるなりしてコメントすべきと思うが、とりあえず、知っていたATSという単語が意味もわからず口をついてしまったのだろう。難解な専門用語を発すれば「さすが目の付け所が違う」という印象を視聴者に植え付けることは可能だろうが、それ以上のものは何もない。

 裏を返せば、報道機関のキャスターでさえ、ATSがあれば、すべての事故が防げると勘違いしているのである。キャスターは鉄道の知識が特別あるわけではない。ブラウン管から消えれば一般人である。一般の人のATS・ATCの概念というのはむしろこのキャスターのように漠然としたものであることがむしろ当たり前だろう。

 誤解を生じないように、ATS・ATCでは何の事故が防げて、防げない事故は何なのかを以下にまとめてみた。

 基本的にATS・ATCは、先行列車・後続列車間の間隔を確保して、列車同士の衝突事故を防止する装置である。それに加えて、その速度照査機能を応用して曲線・勾配・ポイント等での速度調整を行うことも一部できる。しかしそれは、あくまでも「運行が正常に確保されている」状況下での話であって、イレギュラーなアクシデントに対しては、ATS・ATCは動作しないということを、まず頭に入れておくべきだろう。
 現在では、イレギュラーなアクシデントでもそれを検知し、ATS・ATCと接続して連動させる機能を設けているところもあるが、これは本来のATS・ATCの機能とは別物である。

ATS・ATCで防げる事故 ATS・ATCで防げない事故
・列車同士の衝突事故

・列車同士の追突事故

ホームからの人の転落

・人身事故(駅・踏切)

・踏切事故

・列車の脱線と、脱線によって隣接線を支障したときの衝突事故

・火災

地震

・強風

・列車内での犯罪・迷惑行為

・大雨(土砂崩れ)

・線路内の障害物衝突

青字は、ATS・ATCと接続して、その機能を利用しているもの(ただし一部)

 このように、ATS・ATCは「列車同士の正面衝突事故・追突事故」を防ぐことは出来ても、その他の多くの災害・アクシデントには対応していない。もっとも、これらのアクシデントの多くに対しては、ATS・ATCとは別のシステムが導入され、列車を停止させる仕組みが出来ていることを付け加えておきたい。

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