ATS−S形・B形・Ps形
●ATS−S形・B形
ATS−S・B形は、信号機の外方一定距離で、信号機が停止現示のときに、運転台に設置したATS装置の警音が鳴動(ジリリリリリリリリ・・・・)する。運転士は、鳴動確認後、ブレーキ手配を取り、ATSボタンを押下すると警音はチャイム(キンコンキンコン・・・・)に変化する。信号が進行を指示する信号に変化したら、運転士はATS警報持続ボタンを押下してチャイムを消去し、運転を再開する。
ATS装置の警音が鳴動後、5秒以内に運転士の確認操作が行われないと非常ブレーキが動作して停止する。このときはATS復帰ボタンを扱い信号を確認して運転を再開する。
ATS−S・B形の最大の欠点は、速度照査が行われないことと、確認扱いを行ったあとのバックアップは、チャイムの鳴動のみとなり運転士への意識づけだけで、ATS装置自らがブレーキを作動させることがいっさいなくなるという点である。しかし、国鉄では電車・貨物等性能の異なる列車が多数混在していたこと、さらに、地上−車上間で情報を伝送する有効な手段が確立されていなかったこと、三河島事故等で世論の糾弾が厳しかったこともあって、かならずしも完全なシステムとはいえないながらも国鉄全線・全区間に導入された。
●ATS−S形の機能
ATS−Sは、信号機の外方一定距離に地上子を設置して105kHzを発信しているが、信号機が停止現示の場合、この地上子を130kHzに発信させ、列車がこの地上子上を通過した際、車上子が常時発信していた105kHzが130kHzに変周してATS装置のリレーを落下させ、ATS装置を作動させる。
その他に「分岐器速度制限装置」という機能があり、地上子とループとの組合せで、車上子から発信されている105Khzを受信し、基準時間より早い時間で通過(速度が高い)すると地上子が130kHzを発信し、車上のATS装置を動作させるというものである。
●ATS−B形の機能
ATS−Bは、列車検知用の信号電流(商用周波数)を利用したもので、信号機の外方一定距離に来たときに地上のリレーを瞬時落下(5秒程度)させ、この軌道回路電流の断を車上側で検知し、これを情報としてATS装置を作動させる。
この方式は、軌道回路を利用することから逆に軌道回路を設置していない単線の非自動区間では使用できない。このため大都市の通勤区間に多く設置されていた。なお、軌道回路の電源断を検知することから停止信号の内方に入ったときにも再度警報を出すことができるが、このことは逆に信号直前で警報を出すことは出来ず信号冒進は防止できないことを意味する。このため、JR化後に信号機直下の絶対停止機能が求められるようになって、ATS−Sx、またはPに換装され現存しない。
●ATS−S形の改良
ATS−S形は以上のように、確認扱い以後の運転が運転士の注意力のみに頼っており、絶対信号機を冒進する事故の減少には必ずしもつながっていないこと、「分岐器速度制限装置」が地上側の設備であり、電車のような高減速車に無用な警報が発生することから、JR東日本・北海道ではATS−SNの設置が始まった。
ATS−SNは、絶対信号機直下での即時非常停止機能と、高減速車両の識別信号の地上への送信機能が付加されている。絶対信号機直下での即時非常停止機能は、123kHzを発信する地上子を絶対信号機の直前に置き(直下地上子)、停止現示のときこの地上子を通過すると確認扱いをするしないにかかわらず、非常ブレーキが動作する機能である。また、SN形の車上子は車上子の常時発信周波数105kHzに加え、高減速車両には67kHzを重畳することで、地上のSN形分岐器速度制限装置の判別に利用するものである。なお、SNの直下地上子にS形のみ搭載車両が通過すると、確認扱いありの警報が動作する。
ATS−ST形は、JR東海が開発したもので、ATS−SN形の機能に加え、「車上速度照査機能」と「列車番号送信機能」が付加されている。「車上速度照査機能」は、108.5kHzを発信する地上子を2個縦列に置くことにより、この2個の地上子間の通過時間を車上で計測して、規定速度以上で非常ブレーキを動作させるものである。「列車番号送信機能」は、車上で設定した列車番号情報を車上子を介してデジタル信号(MSK変調360kHz)を重畳送信することで、駅近傍の踏切制御等に活用するものである。なお、車上速度照査機能用地上子108.5kHzは、他のATS−S形車上装置に影響を与えないよう、車上子の常時発信周波数105kHzに極力近づけて変周させないようにし、さらにST形の車上子の常時発信周波数を103kHzに変更して双方を区別しやすいようにしてある。
なお、JR東海に常時乗入れるJR東日本車両には、ATS−ST形が搭載されている(SN’形と表記)
ATS−SW形は、JR西日本が開発したもので、「列車番号送信機能」を省いた他はATS−STとほぼ同機能ながら、マイコン化して小型化が図られている。これと同じものはJR四国・九州でもATS−SS、SK形として導入されている。
ATS−SF形は、JR貨物の機関車に設置される車上装置で、JR全社の地上装置に対応できるようになっているが、「列車番号送信機能」については省き、「高減速車両の識別信号送信機能」はオプションとしている。
これらの改良型ATS−S形はいずれも直下地上子での即時停止機能を設けているが、あくまでも衝突事故の発生確率を軽減するのが目的であって、ATSが動作すると必ず停止信号の手前に止まって信号冒進を防ぐというものではないことに留意する必要がある。
●ATS−Ps形の開発
JR東日本では、東京近郊の高密度運転区間にATS−P形を整備してきたが、導入コストが高くつき、P(N)形などの工夫をしてコストダウンを図っているが、必ずしも他の地域に波及させるだけの水準に至っていない。
そこで、現用ATS−SNの地上設備と基礎的技術を最大限活用してコストを抑えつつ、ATS−P形並の保安度をもつ変周式ATS、ATS−Ps形を開発した。
ATS−Ps形は、現在のJR各社のATS−S地上設備に適合させ、さらに各種のマーカ地上子を設けてその周波数・組合せ・設置間隔等の条件をATS−Ps車上装置が認識し、速度照査パターンを発生させ、パターンを超過すると非常ブレーキが動作するシステムである。このため、運転士の操作(確認扱い)は他のATS−S形とほぼ同様である。
ATS−Psは地上子・車上子の常時発信周波数を73kHzとし、従来の地上子常時発信周波数103kHzはPs車上装置ではパターン消去情報として認識する。
停止信号655m手前の80kHzの地上子で第1パターン発生情報を受信し第1パターンを発生、列車速度の照査を行う。この80kHzの地上子は、実質Ps区間の入口として車上装置は認識する。
停止信号390m手前には、他のATS−S形での車上速照に相当する108.5kHzを2個受信して、第2パターンを発生させる。わざわざ他ATS−Sx形の車上速照の周波数と合わせているのは、他のSF形などの車上装置搭載車両でもパターンではないものの車上速照を機能させて、保安度の向上を図るもの。
信号機直下には従来のSN直下地上子123kHzが設置してあり、ここを通過すると非常ブレーキが従来通り動作する。
信号が現示アップした場合は、各地上子は103kHzとなるが、Ps車上装置は直近の103kHz地上子を通過することで記憶したパターンを消去する。103kHz地上子は、他のATS−S形では常時発信周波数に相当するので車上装置は従来通り動作しない。
信号機が近接する場合、パターンを手前の信号機・奥の信号機と2個持つことが考えられるが、手前の信号機に対する地上子の手前にマーカ地上子を置くことで、複数のパターンを持ち、手前の信号が現示アップした場合でも手前のパターンだけ消去し、奥の信号機に対するパターンは保持する。
その他にも、以下の機能がある。
マーカ地上子と130kHz地上子の組合せ→下り勾配補正機能
マーカ地上子と108.5kHz地上子の組合せ→入換信号機頭打ちパターン
90kHzマーカ地上子2個と設置間隔の組合せ→臨時速度制限パターン
90KHzマーカ地上子と95KHzマーカ地上子の組合せ→分岐器速度制限パターン
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