ATS−P形

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●ATS−P形

 ATS−S・B形では地上子・車上子間の情報の伝達量に限りがあり、また多種多様な列車への適用を目的としたため、システムとしては不完全なまま運用されてきた。この欠点を補い、連続的に速度照査を行い、かつ多種多様な列車性能に対応できるATSの開発は古くから行われている。昭和55年にはATS−Sをベースにし連続速度照査・即時停止機能を持つ変周式ATS−Pが関西線で試用されたが、情報量が少ないこと、パターンが非常ブレーキ前提であって運転士への負担が大きいこと、信号機の建植間隔が短い大都市圏では運用が難しいことなどから、試用を打ち切った。

 ATS−Sをベースとした変周式では伝送情報量に限界があることから、デジタル式のトランスポンダを地上子・車上子間に設置し、情報伝送をデジタル電文によって行う新ATS−Pが昭和62年に開発され、西明石駅他3駅に導入された。この方式は情報量が飛躍的に多くなり高密度線区の適用も可能となったことと、上野駅での特急冒進事故を受け、JR東日本では標準設備と位置づけ昭和63年の京葉線で初導入した。その直後、東中野で列車追突事故が発生し、これの対策も合わせ可及的速やかに東京圏の広範囲にATS−Pを導入することとした。

 一方JR西日本では平成5年以降阪和線・大阪環状線・大和路線・学研都市線でATS−Pの導入が図られたが、以後導入した東海道線・山陽線・JR東西線等では地上の機器を集約した統合型ATS−Pとしているほか、東海道線・山陽線のものは絶対信号機のみに対してATS−Pを使用し、他はATS−SWの併用としており「拠点P区間」と呼ばれている。

 ATS−Pは、信号機に接続され電文を作成する「符号処理器」、地上子付近で電文を受信し地上子にデータを送る「中継器」、車両に電文を送信する「地上子」からなっており、車両側では電文を受信する「車上子」、ブレーキを制御し運転台に動作状況を表示する「ATS−P車上装置」からなっている。地上子は、信号機の外方600mにパターン発生用地上子を置き、途中の現示アップに対応させるため信号機の外方180m・85m・30mに消去用地上子を設ける。ただし場内信号機はR現示の確率が高いため、消去用地上子を280m・180m・85m・50m・25mと細分化してある。

 パターン発生用地上子は、自閉そくが停止信号の場合はその停止信号までの残距離を、進行を指示する進行の場合は最長前方2閉そく内にある停止信号までの残距離を送信する。仮に2閉そく先が開通していても開通していないものとして扱う。ATS−Pは、地上子から情報を受け取るため情報の取りこぼしや、地上機器の故障などで電文が作成されないなどのケースも想定されるが、符号処理器は自閉そくばかりでなく2閉そく先までの信号情報を受け取って電文を作成し、地上子に送信するので冗長性を高める設計となっている。

 パターン発生用地上子からの残距離情報を受信した車上装置は、自列車の性能にあわせたブレーキパターンを作成し、これを超過した場合常用最大ブレーキ(自動ブレーキ車の場合非常ブレーキ)を動作させる。パターンに近づいた場合は「パターン接近」点灯、警音が鳴動して注意喚起する。停止信号に対するパターンを超過した場合は、ブレーキは緩解せず、復帰扱いをする必要がある(復帰扱いはブレーキを緩解させるのみでパターンは消去されない)。消去用地上子30m(25m)は、これを超えた場合基本的に即時停止機能として働くので停止信号の内方に進入できない。

 ATS−Pは、基本機能の「速度照査機能」に加え、導入時期に応じて改良が加えられ「車上からの情報伝送機能」、「踏切制御」、「高中減速車の選別機能」、コストダウンとして「中継器の地上子への内蔵」などが行われている。

 

●ATS−P(N)形

 ATS−P(N)形は、首都圏外延部にATS−Pを普及させるに当たって、ATS−Pの基本機能は維持しながら、必要外の機能を省きコストダウンを狙って開発されたものである。

 車上装置はほぼ従来通りであるが、地上装置は符号処理器と中継器を廃止し、信号の器具箱から現示条件を無電源地上子に直接投入し、無電源地上子の送信電文を入力条件により地上子内蔵のリレーで切り換えるものである。送信電文は地上子で作成する一方通行型であり、考え方はどちらかというとATS−S形に近い。

この稿は、次の文献を参考にしています

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