ATCの基礎・種類

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 そもそも、鉄道はレールの上を走るという2次元の世界である。そのため通常は曲線・直線を意識せずとも左右方向への力の分散を考えなくてよいため、長編成による大量・高速輸送が可能であるという側面を持ちつつ発展してきた。一方で、2次元の世界であるがゆえに障害物がその進路上にあってもハンドルや舵を切って避けることが出来ない。すなわち、鉄道において障害物を避けるとき、または一定地点への進入を拒むときは、「停止させる」という手段しかない。

 このため、鉄道の初期から「信号」を用いて、先方への進入の可否を灯、旗、器具等を用いて示す方法がとられてきた。しかし、それを理解し、制御するのは操縦者である人間である。人間には錯誤や失念、意識の低下などで処理能力が低下するときがあるのは避けられない。それが「信号」で考えられている「余裕範囲」を超えたときに「事故」となる。この種の事故は鉄道が開業して以降存在していたが、鉄道が高速化、大容量化してくるにつれ、その被害が重大なものとなってきた。だからといって、過度に「余裕範囲」を大きく見積もっては非効率である。

 人間をバックアップし、科学的かつ合理的に「余裕範囲」を設定しつつ、「信号」にまつわる錯誤や失念、意識の低下があったときに機械の制御で停止させることを考案した装置がATSである。

 1964年に新幹線が開業した。新幹線では、高速度で進行するという特性上、先行列車を「地上信号」で判断しブレーキをかけるということは、およそ人間の能力の範囲を超えた作業であることから、ブレーキ制御を自動化することとした。信号も地上への建植をやめ、車両へ微弱電波で送信して車内に表示し運転士に情報を与える。これがATCである。ATCは運転士が判断しでブレーキを操作するという作業を廃したことから、格段に保安度の向上が図られた。営団日比谷線・東西線ではWS−ATCと呼ばれるATCが新幹線開業以前に設備されていたが、地上信号方式でブレーキ操作は運転士の操作が主体であり、運転方法は従来と同様で、バックアップシステムの域を出ていなかったが、新幹線ATCは運転士の判断を介さないという点で、従来の信号の概念を覆したものといえる。

 保安度で優れた実績を上げたこのATCを在来線、とりわけ地下でカーブが多く信号の見通し範囲がとれず、かつ高速度・高密度の運転を行う地下鉄に応用しようということで、昭和40年代から各地の地下鉄で導入が進んだ。一方国鉄ではATSの機能だけでは補いきれない事故が頻発し、同様に保安度の向上を図るため、昭和50年代に地上在来線の一部にATCの導入が図られた。

 その後、マイクロエレクトロニクス技術の発達により、今までよりきめ細かい制御・高密度運転が可能となり、平成に入ってから数々の方式が考案され実用化されている。その一つは、「一段ブレーキ制御ATC」である。これは、ある一定の高減速度の車両に適した短小の軌道回路を設定し、余裕距離を限界まで廃したブレーキ制御を行う方式であり、地下鉄の更新用、また一部民鉄の高頻度運転用に活用されている。

 もうひとつが「デジタルATC」である。デジタル電文を大容量・高品質に車両に送信出来るようになったことから、従来、地上ATC装置で行っていた速度演算を、自位置を常時把握している車両のATC装置に行わせることで、自律的に制御することが可能となった。機器のデジタル化・民生汎用部品の活用により地上装置の大幅な簡素化とコストダウンがはかれるほか、終端駅などで複雑な車両制御を要求される箇所でも車両のソフトに組み込むだけで地上の設備は不要である、車両性能の異なる編成が混在してもそれぞれに適したブレーキが可能である、将来の拡張性においても地上の設備を改修せずとも車上ATCのソフト改修のみで対応可能であるなど、柔軟性の高いシステムが実用化されている。

 

新型ATC一覧  

使用線区 工事中 情報送信
一段ブレーキ制御ATC
(2周波数アナログ伝送形)
東急田園都市線・東横線・目黒線、営団銀座線・丸ノ内線・日比谷線・千代田線・半蔵門線・南北線・都営三田線・JR東日本常磐緩行線(ATC−10形)   AF軌道回路方式・2周波・地上子併用(ATC−P)
一段ブレーキ制御ATC
(デジタル伝送形)
  営団東西線・つくばエクスプレス AF軌道回路・MSK(デジタル)変調方式
デジタル方式ATC
(D−ATC)
JR東日本京浜東北線(南浦和−鶴見) JR東日本山手線、京浜東北・根岸線(大宮−大船)、都営新宿線 AF軌道回路・MSK(デジタル)変調方式・地上子併用
デジタル方式ATC
(DS−ATC)
JR東日本東北新幹線(盛岡−八戸) JR東日本東北新幹線(東京−盛岡)、上越新幹線 AF軌道回路・MSK(デジタル)変調方式・地上子併用
デジタル方式ATC
(ATC−NS)
  JR東海東海道新幹線・JR九州九州新幹線 AF軌道回路・MSK(デジタル)変調方式・地上子併用

従来型ATC一覧

使用線区 信号現示 情報送信
営団形WS−ATC 営団日比谷線・東西線(国鉄ATC−3形) Y=40、YY=25、R=0
(速度照査のみ、地上信号機方式)
AF軌道回路方式・1周波
営団・東急形CS−ATC 営団千代田線・有楽町線・半蔵門線、東急新玉川線、JR東日本常磐緩行線(国鉄ATC−4形) ×、0、25、40、55、75、90 AF軌道回路方式・1周波
国鉄ATC(1形) JR東海東海道新幹線・JR西日本山陽新幹線 ×、0、30、70、110、170、230、255、270 電源同期SSB−AF軌道回路方式・1周波(後に2周波)
国鉄ATC(2形) JR東日本東北新幹線・上越新幹線・北陸新幹線 ×、0、30、70、110、160、210、240(245)、260、275 電源同期SSB−AF軌道回路方式・2周波
(1形上位互換、ただし現在は不可)
国鉄ATC(5形) JR東日本総武快速・横須賀線(錦糸町−品川) ×、0、25、45、65、75、90 AF軌道回路方式・1周波
国鉄ATC(6形) JR東日本山手線・京浜東北線・根岸線・埼京線 ×、0、25、45、55、65、75、90、(100=埼京線のみ) AF軌道回路方式・1周波
(5形上位互換)
国鉄ATC(L形) JR北海道津軽海峡線 ×、R0、0、R45、45、Y110、110 電源同期SSB−AF軌道回路方式・2周波(新幹線との併設を想定)

※「地上子併用」とは、基本的にシステムの動作に不可欠であり、全車両に搭載されているものを基準とする。(ある特定列車のみの情報送受信は該当しない)

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